2015年12月1日火曜日

かまどのショールーム


そこは標高2,000メートル弱に位置するネパールの山奥の村。20148月半ば、約1週間かけて周辺の村々を訪ね歩いた。目的は、過去に実施した森林組合による森林管理事業について、その後の様子を見に行くこと。

折りしも雨季の真っ最中。増水した川の中を歩いて渡り、ガスで曇る視界の中、雨で濡れて冷たくなった手を握り締めながら、村を回り、森や農地を村の人たちに案内してもらった。


結局のところ、森林組合による植林用の育苗や堰堤のメンテナンスは続いていたものの、共有林以外の私有林においては、見事に畑へと開墾されていた。今日の話の舞台は、その山の裏側、つまり森林組合に参加していないすぐ隣の村での出来事である。



「うちにおいでよ」と連れて行ってくれたお宅は、集落の中でも一番高い場所にあり、潅木の隙間を縫いながら、石を組んだ坂道を這い登るようにして、ようやくたどり着いた。
家に入ってすぐの処が調理場兼食事をとる場所で、調理場は綺麗に掃き掃除が終わっている。奥にかまどが見えており、その横にはガスシリンダーも置いてある。さらに、入り口近くの床から細いビニール管が出ているのが見えた。

一通り挨拶してから、
「これは何ですか?」とそのビニール管を指差して聞いてみた。
「これは、バイオガス用の管よ」と、その家のおかあちゃんが答えてくれる。「専用のコンロをここに持ってきてつなげると、調理できるのよ」
「へぇ、バイオガスですか。今日のお昼は、これで調理したのですか?」
「そうよ。豆カレーを作ったの」
「じゃぁこれは?」とかまどを指して聞いてみる。かまどの中には炭もない。
「見てのとおり、かまど。ただ、今はおとうちゃんと二人だけだからほとんど使わないけどね。」
「いつ使ったのですか?」
「この前のジャガイモの収穫期。子どもたち家族が手伝いに来てくれて、ここで大勢で過ごしたの。大人数のご飯を作るときは、やっぱりかまどじゃないと火力が足りないのよ」
「えっと、ここにガスシリンダーとガスコンロがありますけど、これは使えるのですか?」
「もちろん!バイオガスの火力じゃお米を上手く炊けないのよね。だから、お父ちゃんとの二人だけでも、お米はここで炊くの」
「すごいですね。ちなみにこのガスシリンダーは、どこから持ってきたのですか?買ったのですか?」
「これは、村の役場で薦められた所で、安く買ったの。バイオガスは、どこかのNGOが数年前に作ってくれて。一応、トラブルの時の窓口みたいなお店を紹介してくれたけど、まだあるのかしらねぇ?」 

このように会話は続き、結局のところ外の簡易かまども含めると、この家には4つも煮炊きをする器具が揃っていたのである。ただ、かまどを皮切りに、このお家の家族構成や息子、娘家族の暮らし(カトマンズに移住)、そして近隣の独居老人問題や、空き家事情まで判明したという、日本の地方のような事情に絡めとられたネパール農村が垣間見えたのだった。



ムラのミライ海外事業チーフ  
前川 香子


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