2023年3月1日水曜日

メタファシリテーションのできるまで(8)

現場でのやり取りに手応えを覚え、農民(より大きな括りだと村人ですね。余計なことですけど、相手を農民と呼ぶ私は都会者とでも言うのでしょうかね)とのコミュニケーションに大分自信を持つようになったのですが、では実際にプロジェクトをするにはどうしたらいいのか、農民の本音のようなものがわかったところで何をすればいいのか、事業としての取り組みと農民とのコミュニケーションの間の繋がりがまだ見えていない、そんな時期に私はいました。この活動を始めて5、6年がたった頃でしょうか。

数字への入り口

この時期、私は数字に凝り始めていました。

具体的に何をしたかというと、まず植林をするのに正確な地形図がないのに音をあげてスタッフに測量トレーニングをしました。日本から測量の道具(古いやつです)を提供してもらい、尚且つこれも日本の測量の専門家たちに来てもらい(休暇を利用したボランティアです。飛行機代も何もかも自費で来ていただいています。今なら、もしこんな必要があったら、現地の専門家に謝礼を払って来てもらいますが)、CSSSのスタッフに測量のトレーニングをしてもらいました。しかし、みなさん、仕事の合間に休暇をとってきてくださっているので、現地に滞在していただけるのはせいぜい3、4日です。この期間でできることは、教えてもらいながら測量機器の操作をするのがやっとで、とても自分たちで地形図を作るところまではいきません。それでも、地形図がないと正確な植林計画ができない、特に斜面に植樹するときの苗の必要数が計算できないなど、スタッフに理解してもらうことはできました。

だからと言って、測量が定着したわけではないのは、インストラクターが側についていないとできない程度の習熟度だったからなのは明らかです。それに、もう一つ、私がそれから10年以上経ってから実行したことですが、この時はまだ村人に直接測量を訓練する、それもメジャーを使っての極めて簡単なものさえ行わなかったことです。まだそのことは当時の私には発想がありませんでした。どんなプログラムも、「村人のプログラム」などと偉そうに言っていた割には、本当は自分たちが持ち込んだ、支援者の支援者による支援者のためのプログラムだったという自覚がなかったのですね。

どのくらい足りないのですか?

ただ、この頃になると、数字に凝り出していた私は、数字を尋ねるということをしていました。例えば、村人から「水が足りない」と言われれば「どのくらい足りないのですか」という具合に。それに対して「あの田んぼを灌漑するのに足りない」と言われれば、「どの時期にどれだけの水が必要なのですか」と、具体的に問い返すことをしていました。また、これに加えて「水が足りない」と思うようになったのはいつからか、そんなことも尋ねるようになっていました。


このように問い返す、具体的な数字を尋ねるということを通して、幾つか学ぶことがありました。

まず、第一に村人たちは数量的に足りる足りないを把握しているのではないということ。必要量はこれだけだから、これだけ水のストックがなければいけないとか、これだけの容量の溜池が必要だとか、「水が足りない」ということの根拠は必要な時に十分な雨が降らなかったとか、井戸が枯れてしまったとか、溜池に水が溜まらない、あるいは干上がっている(乾季にはよくあることですが)とか、目前の現象としての水不足であり、だからこの耕作面積に対してこれだけ不足していたという数量的に把握した認識はありません。

第二に、水がなぜ不足するのかという原因についての考察がありません。いつ頃から水不足は始まったのか、始まった頃一体村で何が起こったのか、あるいは起こり始めたのか、そのことを問うということがありません。もっとも、偉そうにこういう私も、そんなことを考え始めたのは、もっと後のことですが。

第三に、水やり(灌漑)そのものについても、計画的に行なってはいません。

分析する枠組みの一歩手前で

以上のような学びはあったのですが、ではそれをどのような枠組みで検討すればいいのか、課題は果たして何なのか、そこまで突っ込んで考えていくには、当時の私はまだまだ経験や知識が不足していました。今思えば、水不足ということを村の時間軸上での変化という文脈に落とし込む、そして他の自然資源との関連において総合的に判断していくという知識も技術も、そして何よりも見識もなかったわけですが、そのような知見ができるまでには、後数年かかりました。


しかし、そのような知見も、ただ待っていても持てるようになる訳ではありません。私の現場での技術も、新たな知識を得てそれを自分の知見とするに必要なレベルに達するまで、それなりの進歩を遂げていました。それが具体的にどういうことか、次回に例を挙げて説明してみましょう。
 

和田信明(ムラのミライ海外事業統括)