2014年2月4日火曜日

初めての「現場」を訪れる



今回は、コミュニティーで活動を始める時に役立つ事例をご紹介します。舞台は2007年、インドの農村です。




 今回の村訪問の目的をスタッフ全員で確認し、村に着いたら誰が何を言って、という役割分担もして、一同ビシャカパトナムから、いざポガダバリ村へ。事前に行くことは伝えてあったので、村のリーダー含めSHG(女性自助グループ)のメンバーたち、合わせて15 名ほどが待っていてくれた。

 まずは、紹介役のビジャヤ。

「ナマスカーラム(州の言葉テルグ語で「ナマステ」よりも、やや丁寧な挨拶)。えーっと、今日は新しいムラのミライ(旧称ソムニード)・メンバーもいるので、まずはその人を紹介しますね。」

と、やや緊張した笑顔を見せながら、ソムニード・ネパールのスタッフや、修士論文調査に来ている大学院生を紹介していく。そして、次はアショクが訪問目的を言うことに。彼の目の前には、村のリーダーが座っている。

 今までのフィールド・ワークといえば、フラっと村に来て自分の用事を済ませれば帰る、ということがお馴染みだったから、こんな来訪の目的を告げるなんてこと、どうすれば・・・
と緊張の波が彼に押し寄せる中、トツトツと目の前のリーダーに語りかけるのが精一杯。一方、リーダーの後ろの方では、

 「そういえば、議事録つけなくちゃ。ノートはどこ?」と立ち上がる娘さん、
「おや、もうなんか話しているのかえ?ちょっと詰めておくれよ」と遅れてやって来たオバチャン、アレやコレやとガサガサして騒がしい。
「・・・と、言うわけで、今日は村に来ました。」と言い終ってほっとした頃、後方がようやく落ち着いた。

「みんな、聞こえたー?」とスタッフが問いかけたと思いきや、いきなり緊張が解けたビジャヤと興に乗ったスーリーが、アショクが言ったことを再び大声でしゃべりだす。そして村の中を歩き回ってもいいか村人の許可を求め、手のあいている人には協力してほしい、と伝えた。

「ほう、面白そうだねぇ」と10 人ほどが同行してくれることになり、まずは2 時間ほど二手に分かれて歩き回った。

村の人たちも、外部の人間からの「アレが無い、コレが無い。」
という指摘にばかり慣れていたものだから、今回のように、村に在るもの、自分たちが普段使っているものを紹介するのは嬉しいと見え、ずっと喋りっぱなし。

一人のオバチャンが
「この草はね、茎がロープに使えて、葉っぱは牛の餌になって」
と話しているのに、別のオバチャンが
「この木の葉っぱはね、消化促進に良いんだから。ほら、食べてごらん」

と枝を折り、子どもたちは何かの実を手に持ってくる。

スタッフは、自分の関心のある植物への質問を、あれこれと聞きだす(押し付ける)のではなく、オバチャンやオッチャンたちが話したい植物に、まずは耳を傾けるのが基本のスタンス。

だけど、聖徳太子のように一度に大勢の話を聞けないので、順番に話してもらうのだが、村の人たちのなんと知識の多いことか。

薬や食用、道具用など多様な草花、木が田んぼの畦道から畑、村の裏手まで、色んな所に生えている。この木の花がたくさん咲けば、稲がたくさん実る、という逸話も、否定したり無視してはいけない要素だ。

 スタッフにとって、ただの雑草に見えていたもの、村の人たちにとって単なる植物だったものが、実は資源になり、それは村の宝となる。フィールド・ワーク歴約20 年、ポガダバリ村にも数え切れないほど通ってきたスーリーが、鼻息荒く感動を伝えてくれた。

 「オレは、今まで何度となくこの村に来ているけど、こんなにたくさんの草や木があったなんて知らなかった!オレは、とても興奮してるよ。すごい経験だ!」

(※スーリーは、ムラのミライに入ってから目から鱗の連続。今まで20 年近く勤めていたNGOでは、村人の話を聞くこともなく、村にある宝(資源)に目をつぶり、無いもの探しばかりして、プロジェクトという名のプレゼントを村人に押しつけていたので、今回のフィールド訪問で、村人から湧き出るような植物に対する説明、豊富な資源の発見に、感動はひとしお)


さて、みなさんは、初めて地域コミュニティなどの「現場」を訪れた時、何を質問していますか?

村を訪問するにあたり、まずスタッフは村のリーダー含めSHG(女性自助グループ)のメンバーたちに「訪問の許可」を得て、手のあいている人には協力してほしいと呼びかけました。

何でもないようなことですが、まず相手にものを尋ねるときは、何者かを名乗り、相手の許しを乞います。

そして、スタッフは村人有志とともに、村歩きに出かけます。

基本スタンスは、自分の関心のある植物への質問を、あれこれと聞きだす(押し付ける)のではなく、オバチャンやオッチャンたちが話したい植物に、まずは耳を傾けること。
村人は、村に在るもの、自分たちが普段使っているものを紹介することで、どんどん饒舌になっていきました。

このように、スタッフの質問によって、村人が心を開いたのは何故でしょうか?

それは、村人が外部者、とりわけ援助団体のスタッフや社会的な立場のある人の質問に、的確にかつ迅速に答えられたことで、自尊感情(セルフエスティーム)が高まったからです。

対話型ファシリテーションの第一歩は、相手が的確にかつ迅速に答えられる質問を行えるようになること。

そこで、「現場」に入る前には、
・自分がする質問が「相手にとってどのような意味」を持つのか
・答えることによって、相手のセルフエスティームが高まり、心を開かせることができるか

に配慮した質問を組み立てることが大切です。
具体的な質問の練習方法は次週ご紹介します!

(研修担当インターン)
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※詳しい解説は、『途上国の人々との話し方』111113ページ「セルフエスティームが上がると心が開かれる」、195196ページ「農村コミュニティの“知”の性質」、「外部のファシリテーターの役割にかかる仮説」をご参照下さい。