2017年1月3日火曜日

経験から学ぶことはできない、でも・・・

2016年夏、インドネシアの中央カリマンタン州にある村を訪れた私。
同地域で活動するNGO に関わっていることから、この村への訪問も8回目になる。
日本との往復を繰り返していると、現地の知り合いに「日本で○○を買ってきて〜!」と頼まれる機会がしばしばある。
今回は、そんなやり取りの中でファシリテーションを試みて撃沈したお話・・・だけではなく、その反省から生まれた学びを共有したい。


「お前さんに折り入って話したいことがあるんだ・・・」
と、真面目な表情で話しかけてくる村のおっちゃん。
「実はな、日本の腕時計が欲しいんだ。
○○や△△が持ってる様なやつ、軽くて丈夫で高すぎなくて良いんだよ、あれが。」

他の人にも何度も同じ事を頼まれてはかわしてきた私。
内心では、村の人たちは流行に流されているだけで、腕時計が「必要」なわけではないんじゃないかと疑っていた。
ここは一丁、おっちゃんに「別に必要じゃないんだけどな〜、みんな持ってるからワシも欲しくて(苦笑)」と認めさせてやろう!
そうすればもう面倒くさい頼まれ事をされることはなくなるかも、と意地悪(?)なことを考えつつ、質問をしてみた。


私「腕時計が必要って言うけど、おっちゃん携帯電話持ってなかったっけ?」

おっちゃん「持ってるよ。今は家に置いてきてるけど・・・」

私「持ってるけど今は携帯してないのね。で、腕時計は持ってないの?」

おっちゃん「これまでに何個か買ったことがあるけど、全部すぐ壊れたんだ。1ヶ月で壊れた物もあったよ」

私「それで最近、腕時計を持ってなくて困ったことってあったの?」

おっちゃん「そりゃあ、外にいるときに時間を知るのに必要じゃろ!」

私「最近、外にいたときに時間が分からなくて困ったことがあったの?」

おっちゃん「家の外にいたときに(イスラム教の)お祈りの時間が分からなくて困ったんだ。ワシの家は礼拝所の目の前だからいつも時間通りにお祈りに行くんじゃが、その時はちょっと遠くに出かけててな・・・」

私「その時、携帯電話は持ってたの?」

おっちゃん「持ってたけど時間が狂ってたんだよ」

私「うーん、まぁ理由は分からないでもないけど。ところで、○○さんみたいな腕時計が欲しいって言ってるけど、それってデジタル?アナログ?」

おっちゃん「実はな、デジタルってのは読みにくいんだよ。針があると一目見てパッと時刻が分かるけど、デジタルはどうもなぁ・・・」

私「へぇ〜、じゃあ買ってきて欲しいのは、針のついてる腕時計?」
おっちゃん「う〜ん、いやぁ、いいんだ!ワシが欲しいのは○○のと同じ時計なんだ!な、お願いじゃ、本当に必要なんだよ・・・」


さて、ここで色々とツッコミたくなる読者の方もいらっしゃるだろう。
私自身が振返りをする中で自分にツッコミたくなる一番のポイントは、「礼拝の時間が分からず困った」という発言に対して「で、どうしたの?」を聞かなかった点である。
(ファシリテーター諸先輩方には、「そこじゃなーい!」というさらなるツッコミをされてしまうのかもしれないけれど・・・(冷汗))


失敗談はともあれ、この記事を書きながら私が思い出す、ある言葉がある。

「人は、経験から学ぶことはできない。経験を分析することを通して学ぶことができる」
(『途上国の人々との話し方』でも紹介されている、ブラジルの教育家パウロ・フレイレの考え方)

「あ〜、また上手くいかなかったなぁ」では、どうにもならない。
経験を文字化して、「こうできたのかも」「こういう持って行き方もあったんだよな」と振り返ることで気づきが生まれる。
本当は上記のツッコミ以外にも気づいたことは何点かあるのだが、そのことは(もしリクエストがあれば)またの機会に書いてみたいと考えている。





(ムラのミライ 近藤美沙子)



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