2017年1月17日火曜日

“コミュニティが主体”っておとぎ話なの?

以前、コミュニティーが主体“じゃない”事例を書籍「途上国の人々との話し方」から紹介しました。
世界には山のように沢山プロジェクトがあるけど、じゃあ一体コミュニティーが主体のプロジェクトってどんなプロジェクトなの?と、分からなくなってきてしまいます。
スーパーヒーローを呼んで敵を倒してもらうことは“コミュニティが主体”とはいえない…
じゃあ、スーパーヒーローを呼んで戦い方を教えてもらうのはどうだろう。
そうするとまずスーパーヒーローの「我流・戦い方プレゼンテーション」が始まり、ああしろこうしろと村人たちは言われるがままに敵を倒していく。
なんだかコミュニティーの「お客さん感」が拭えない。

…そもそもこの世にコミュニティーが主体のプロジェクトなんて存在するの?

安心してください、存在します。
おとぎ話ではありませんでした。
ここからムラのミライが2007年から行ってきたプロジェクトについて紹介したいと思います。

荒廃がすすんだ森林、土、限られた水といった自然資源を守り、活用していくことは農村で暮らし続けていくためのいちばんの基礎となります。
ムラのミライは、個々の村人ではなく村全体で、こうした自然資源を有効利用(マネジメント)できるよう、さまざまな技術支援として、村の人たちが、自分たちの森や水資源を自分たちで再生し、守っていくために必要な研修や土木作業をおこなってきました。

その活動のプロジェクト通信“インド「水・森・土・人 よもやま通信 第2部」”に掲載されている一部抜粋です。



最終評価当日、ブータラグダ村を訪れるスタッフたちとJICAチーム、この時期に合わせてネパールから和田さんもやってきた。
村人たちが準備した会場には、砂で作ったブータラグダ村の流域のミニチュアと、村でとれる作物やSRIの稲のモデルが展示されている。
JICAチームや和田さんたちに用意された歓迎の花の首飾りには、2009年に植林した木が咲かせた花が使われ、濃厚な香りを放っている。
この地で「サンパンギ」と呼ばれるインド原産の木だ。
劇の準備だけでも大変だっただろうに、自分たちで工夫しながら会場を設営して、スタッフとJICAチーム、そして他の村の人に、これまでの活動を伝えようとするブータラグダ村の人たちがより一層頼もしく感じられた。


音声のチェックを終えて、会場の準備は整った。
隣のパンドラマヌグダ村とバルダグダ村から、そして車で2時間も離れたポガダヴァリ村とアナンタギリ村から、招待された村人たちがぞろりぞろりと集まって来る。
それに合わせて準備に携わっていないブータラグダ村の村人たちも会場にやってくる。
『これから何が起きるんだろう?』と、ワクワクしながら、お父ちゃん、お母ちゃんが働く姿を見つめる村の子どもたち。
立派に会場を仕切る息子たちを静かに見守る村のおじいちゃん、おばちゃんたち。
会場が一杯になった。
アナンドがマイクを握る。
彼は流域管理の指導員として、村のリーダーの一人として、流域管理の活動を引っ張ってきた。
ムラのミライとソムニード・インディアのそれぞれの代表格和田さんとラマさん、2007年からずっとB村に寄り添い研修を行ってきたキョーコさんとラマラジュさん、他のスタッフたち、JICAチーム、招待された他の村の人たち、それぞれの紹介を終えて、いよいよブータラグダ村の軌跡の発表が始まる。


...そう、始まりは2007年、ムラのミライ、ソムニード・インディアとブータラグダ村との出会い。
最初は、流域なんて言葉も知らなかった。
でも研修を受けて、自分たちの流域のことを知った。
自分たちの村にある資源を知った。
物図鑑を作って、計画づくりのやり方を学んで、石垣をつくって、植林をして、今度はそれを村のみんなでメンテナンスできるような仕組みをつくって、、、
少しずつ自分たちの森のことを知って、それを守り、今度は農業に活かすための実践を続けてきた。
そして、自分たちが習得した技術を隣の村にも教えるようになった。
今では、自分たちで流域管理の計画を立て、それを実践できるようになった。
今では、乾季でも村で水が手に入るようになった。
今では、農業の計画を立てて、小さな土地を有効活用して、より多くの、多種類の作物がとれるようになった。
今では、化学肥料に頼らなくても、ミミズや牛糞や葉っぱを利用して、土に栄養を与える方法を知った。
毎月各世帯から貯金を募り、今では村の中でお金の貸し借りが出来るようになった。
そして、今では「安全な水と土で安全な野菜を作り出す村、そして高利貸しなど外部からの融資に頼らなくても自活していける村」という目標を立てて、それを達成するため2020年までの計画を立て、実行している。
誰かが『あーしろ、こーしろ』と、指示したわけじゃない。
この全ては、ブータラグダ村の人たちが自分たちの意思で続けてきたこと。
自分たちの意思だから、8年間、ずっとこの活動を続けてこられた。
ブータラグダ村の軌跡の発表が終わると、会場からは拍手が巻き起こった。
司会をしていたアナンドがブータラグダ村のみんなを呼び寄せた。
子どもたちも、若者たちも、お母ちゃんも、お父ちゃんも、おじいちゃんも、おばあちゃんも、『これがオラたちのブータラグダ村』だと言わんばかりに、その嬉しそうな顔には、自分たちの村を誇る自信が感じられた。
素晴らしい発表に筆者も感動した。
そしてなによりも、この日のために村で計画をして、準備をして、私たちスタッフや他の村の人たちを招待して、この大きな催しを成功させたことがブータラグダ村の成長を物語っているような気がした。
ブータラグダ村だけが特別だったわけじゃない。
ただ、一つ一つの研修を積み重ねて、村のみんなで考えて、村のみんなで計画し、村のみんなで実践をしてきたから、いまのブータラグダ村がある。


他の村人たちは、このブータラグダ村の軌跡を聞いて、何を思ったのだろうか?
司会のアナンドが、他の村人たちにコメントを求める。
同じ2007年から流域管理を続けてきたポガダヴァリ村のチャンドラヤは、
「オラたちも、流域について学んで、植林をして、石垣をつくって、農業のことを学んで、、、」
と、自分たちの活動もアピールするように身振り手振りで話しだした。
ブータラグダ村の発表に触発されたのか、前日にJICAチームがポガダヴァリ村を訪問したときよりも、もっと威勢がいい。
同じく前日にJICAチームが訪問したときは、恥ずかしがる表情を見せていたアナンタギリ村のクリシュナも、今日は堂々と話している。
パンドラマヌグダ村とバルダグダ村は、ブータラグダ村の指導員から流域管理について学んできた。指導員たちから学び、実践してきたことを振返って、
「自分たちもこの流域管理の活動を続けて、ブータラグダ村のようになりたい。」と抱負を語った。
ブータラグダ村の発表は、ブータラグダ村の人たちだけでなく、他の村の人たちにとっても、自分たちの活動を振返り、評価する機会になったのだった。
そして、その振返りをもとに、これからの村づくりを考えるとき、他の村にとって、ブータラグダ村は一つの道しるべになる。
2007年に始まった流域管理プロジェクト。
2015年8月31日で、2011年9月から始まった草の根事業(第2フェーズ)は終わりを迎える。
そのため、今回JICAチームを迎えて行った。
でも、ブータラグダ村の村づくりの活動のなかでは、これはきっと通過点にしか過ぎない。
このプロジェクトで学んだことを活かし続けながら、お互いに新たに学び続けながら、そしてその学びを、流域を共有する他の村の仲間たちに伝えながら、ブータラグダ村の村づくりは続いていく。

よもやま通信第22号「奇跡じゃない、これがオラたちの軌跡」(2015年8月17日発行)



ムラのミライのプロジェクトでは、ムラのミライからスーパーヒーローが送り込まれ、共に活動を続ける村人たちの中から、若きスーパーヒーローたちが誕生しました。
プロジェクトが終わった後も、ムラのミライと共に敵を倒す方法を自分たちでしっかり考え、身につけた彼らが中心となって敵から村を守っていく。
そしてその方法を周辺の村、世界へと広めていく。
これが本当の“コミュニティーが主体の村づくり”なんだなと、ムラのミライ修行も残り2日となった今、実感するインターンの三谷でした。



(ムラのミライ 関西事務所インターン 三谷遥来




→活動の道のりが見えるプロジェクト通信インド編
水・森・土・人 よもやま通信 第2部

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