2014年5月20日火曜日

住民組織をつくらない②

今回は、インドでの事例から、村の構造物を維持管理するための自分たちの住民組織について村人たちが考えるようになったきっかけ、の続きです。

2つの村の構造物の視察を終え、振り返り研修の日。

朝9時に研修開始と言う場合、今までなら早くて10時、遅い場合には11時半にやってきていた村の人たち。ところが、マ村のメンバーたちは今回8時50分という最速記録を樹立。

10時近くにやって来たポ村のメンバーたちに、「時間通りに来てもらわないと困るんだよねぇ」と文句を言い、研修中もリーダーが時間を見ながら制限時間内にきちんと発表材料を整えるという、今までにないマ村の、特に常連メンバーたちの変わり様に驚く私たちとポ村のメンバー。

「それでは、視察でいろいろと見たり聞いたりしたと思うのですが、各村での良い点、悪い点は何でしたか?」

「A村の貯水池はダメで、B村の石垣は良かったです。」

「C村のリフト式灌漑施設はものすごく良くって、D村の貯水池は最悪でした。」

研修へ臨む姿勢は変わるものの、発表の中身は相変わらずのポ村とマ村。

そこでラマラジュと筆者でオジサンやオバチャンたちに問いかけて、自分達が4つの村で何を見て聞いてきたのか、思い出させる。

その過程でも、「委員会がないっていうのは良くないよね」というメンバーに対して、「なぜですか?委員会があるとどういう利点があるのですか?」「何の委員会が必要なんですか?」と問い続け、どれだけ村の人たちが理解しているのかを測っていく私たち。

そうして、A村やD村で利用されている構造物が何故ダメになっていたのか、B村やC村では何故良い状態で使われていたのか、ほぼ同じ時期に建設されている4つの村で、まるで正反対の結果となっている理由は何か、ポ村とマ村のメンバー達はさらに詳しく考えていった。

そして最後には、メンバーたちは、「村の全体集会を開き全員の意見を取りまとめる」「建設実行委員会を作り、特定の口座をもつ」「活動内容を明確にして全員に知らせる」「議事録、帳簿、出席簿などを管理する」「建設後には維持管理委員会を作って、毎年メンバーを入れ替える」というような、構造物を長く運用するためのポイントを、今回の視察から掴み取った。

もしも視察をせずに、「村全体で集会を開いてみんなの意見を聞きなさいよ」「建設実行委員会を作りなさいよ」「定期的な委員会を開きなさいよ」「議事録などを付けなさいよ」とソムニードから言っていれば、オジサンやオバチャンたちは「なぜそれらが必要なのか」を理解しないまま、「言われた通りにやります」という待ちの姿勢になってしまう。

けれど、オジサンやオバチャンたち自身が視察から理解できたからこそ、「まずは村の集会からきちんと実行しないと」と、今回やる気を見せた。

視察の思惑、いや目的が果たせてラマラジュとほくそ笑む筆者。

そうして、オジサンやオバチャンたちは自分達の村の委員会や組織を振り返り始めた… 続きは下記よりお読みください。




2014年5月13日火曜日

住民組織を作らない①

今回は、インドでの事例から、村の構造物を維持管理するための自分たちの住民組織について村人たちが考えるようになったきっかけを、2回に分けてご紹介します。


うだるような暑さから一転、モンスーンの到来とともに気温も下がりつつある農村部。

自分たちの村にある構造物(※)の管理で散々なものが多くても、自分に甘く他人に厳しいのが人の常。最初から自分の村の構造物を見ても、その状態を冷静に分析できないと判断したソムニード(現ムラのミライ)は、近隣の村の構造物をパートナーの村人たちに視察に行ってもらうことに。

※例えば、灌漑に使うものから、土砂の流出を防止する石垣のようなもの、雨水を貯め、土地の保水能力を高めるもの、などなどの総称。同事業では、住民が維持管理できるインフラ設置を目指す。

ポガダヴァリ村(以下、ポ村)からの視察を一日、マーミディジョーラ村(以下、マ村)からの視察を一日、と設定し、それぞれの村から10人前後が参加した。

「ラマラジュさん(※1)、いつもと同じメンバーだと思ったら、初めて来る人たちもいますね」

「そうですねぇ。やっぱりアレですよ、キョーコさん(※2)。この前の、村全体でのミーティングで、今までのソムニードの研修やらこれからの予定やら全てを、研修を受けてきたオジサンたちがみんなとシェアしたときに、研修を受けてきていない村の人たちから色んな質問とか意見が飛び出してきたのが効いたんですよ。ほら、彼も質問をした一人ですよ。(※前号参照)」

初めて参加する人たちの中には「他所の村の構造物を見て、自分たちにとってナンか良いことあるの?」とソボクな質問をいきなりしてきたオバチャンもいて、常連参加のオジサンが「自分たちの村にはない設備もあるかもしれないし、どういう場所に貯水池やチェックダムを作ってるとか参考になるだろう?それに、建設や修理の方法も何か分かるかもしれないし。」と、やんわりと応える。

加えて、私たちからヒントを与える。

「これから見るものは、全てが成功例ではないかもしれないですよ。」

「それに、構造物の作り方とか直し方とか以外にも、村の人たちが建設前、建設中、建設後にどうやって係ったのか知っていますか?」

「構造物の設置や維持管理が上手くできていない村からも学べることは無いんですか?」

「もしも維持管理が上手く出来ているならば、どのように村の人たちが維持管理をしているんでしょうか?何か組織があるのでしょうか?あるのならば、どのように運営されているのでしょうか?」

「今も維持管理がきちんとされている村と、そうでない村の違いはどこにあると思いますか?」

私達の質問にもタジタジになって答えられないオジサン&オバチャンたちは、ただ見て作り方を教えてもらうだけでは自分達の村に活かせないことに気づき、どういう質問をしようか考え始めた。

注意書き
※1 ラマラジュ;植物図鑑の研修をしてからというもの薬草に興味を持ち、トレーニングセンター敷地内にある雑草が薬草かどうか確かめるのに楽しみを覚える。
※2 本名、前川香子。この通信の筆者。トレーニングセンターの雑草が薬草と分かれば、肝臓が悪くないのに肝臓病に効くという草を試食し、ハゲてないのに育毛剤になるという草を持ち帰らされる。

視察に訪れたポガダヴァリ村のオジサン&オバチャンたちの様子は、下記よりお読みいただけます。


次回は、この視察を通じて、ポガダヴァリ村の村人たちが自ら気付いた“住民組織”の重要性をご紹介します!

2014年5月9日金曜日

水・森・土・人 よもやま通信 第2部 第12号「オラ達の再出発」

 

目次

1.もう一度始めよう
2.あの言葉を言って!
3.本気でやりたい人は誰?
4.農家がこれから受ける農業研修とは?
5.「モデル」ってどういうこと?
6.魅せるオッチャン、魅せられるオッチャン

日本では桜が咲き誇り、穏やかな春の訪れとなる4月、南インドでは気温が一気に40度まで上がり始め、お昼を過ぎるともう野外に出るのは億劫になってくる。村の人たちも、「お昼ごはんの後は、もう研修に参加できません」と宣言する酷暑期の始まり。山では、土壌流出防止対策が効果を発揮し、厚く積もった土壌にどっしりと立つカシューナッツやマンゴーの木々は、たわわに実をつけている。



1.もう一度始めよう

マダムと呼ばれるようになった指導員、パドマの活躍を前号でお伝えしたが、パドマが暮らすポガダヴァリ村(P村)では、ブータラグダ村(B村)のような農業カイゼンの研修が一時ストップしていた。専業農家の村人たちにとって、今までの農業のやり方を変えるというのは、不安がつきもの。今までと方法を変えることで、もしもお米が採れなかったら、もしも野菜の収穫量が減ったら、もしも、もしも・・・と色々想像し、政府スキームの労賃作業に取り掛かる内に、「研修をしてください」という声が聞こえなくなっていった。なので、自然と2013年には、ソムニード(現ムラのミライ)からの研修はなくなった。
対してB村は、P村と同じような不安を抱えつつも「やってみよう」という気持ちが大きく、根気強く研修を受け続けた。そして、これまでに、このよもやま通信でお伝えしてきたように、収穫量が増えたり、お米の色つやが良くなったり、野菜を市場で買わなくても済むようになったり、とB村では様々な成果が表れた。指導員が新しいトピックの研修を隣村にする前に受ける、ソムニードからの指導員研修。

こうした場で、B村の指導員からその農業カイゼンについての『進捗状況』を耳にしてきたP村の指導員、パドマやダンダシ、チャンドラヤと言った面々は、「オラたちのP村でもやらねば」と、再びやる気のスイッチが入ったのだ。
「一度、ワシらとミーティングを持ってほしい」とダンダシに乞われ、P村を訪れたラマラジュさんや筆者たち。3月下旬のある日、ミーティング開始15分前にP村に到着すると、村には人影が無い。ニワトリと犬がノロノロと歩き回っているだけ。何をしているのかなと思いつつも、村の入り口となるコミュニティホールで待っていると、パドマが集落裏手から現れた。

「ナマステ、みなさん。もうみんな、準備万端で待っていますので、ミーティング会場に来てください」なんとまぁ、開始15分前で、老若男女混在で50人は居ようかという村人たちが、もうすでに会場(2部屋ある学校の使われていない1部屋)に車座になっている。こんな風景を見るのも懐かしいなぁ、と思いつつ、村人たちの間に座らせてもらう。
「みなさん、ナマステ。久しぶりですね。私がP村に来るのは・・・約1年ぶりですよ」とラマラジュさんが笑って言う。
「私たちが誰だか覚えていますか?」と冗談めかして尋ねるラマラジュさんに、「もちろん、ソムニードですよ!」と村人たちも笑顔で答える。
「今日はミーティングに参加してほしいと言われて来たのですが、何のミーティングですか?」と、まだ笑顔の筆者の質問に、「さぁ、なんだか集まれってチャンドラヤに言われてねぇ」と、まだ笑顔のオッチャンが答える。
「そんな言い方してないだろう!農業についての研修を始めるためのミーティングだろう」とチャンドラヤが、ちょっと怒る。それを受けて、なんだかザワザワしてきた会場。
「今まで山頂や中腹で色々活動してきたでしょ。だから、今度は農業をもっと良くしようって、ソムニードから研修を受けるのよ。そのために、研修を受けたい人は今日のミーティングに集まって、って言ったじゃない!」と、ざわつく中、パドマが大声を張り上げる。


2.あの言葉を言って!

筆者たちは、デジャブを感じる予感のするミーティングになりそうだ、と思いながら、質問を重ねていった。
「『山頂や中腹で色々活動をしてきた』って、パドマが言っていましたが、どんなことをしたのですか?」
「植林とか、石垣作りとか、堰堤作りとか」
「あと、ため池も溜まった泥を取り除いて、水門を付けたり」
「新しいため池も作った」

こうした答えを、パドマたち指導員には黙ってもらっていて、他のP村の村人たちから答えてもらう。誰が植林に参加したのか、どんな木を植えたのか、石垣や堰堤はそれぞれどこに設置したのか、作ることでどんな効果が得られるのか。かつて研修によく来ていたオッチャンたちの他にも、オバチャンや若者も答えてくれる。
「植林は、マンゴーとかチークとか、カシューナッツとか・・」
「マンゴーは食用ですね?じゃぁチークは何のためですか?」と用途についても質問していくと、
「そうそう、植林は、食用、木材用、薪用、飼料用、薬用、あと山頂を守る樹冠が大きい木、のそれぞれで選んだ種類を植えたんです」と、段々と細かいことも思い出していく。
「山頂は水源地帯だから、牛やヤギの放牧もしない。薪や木材は中腹かそれより下の地帯で採るようにしないといけないのよ」と、オバチャンも思い出していく。
「そうしているのですか?」と聞くと、
「いや~、まだ植林した苗木が育ってないから・・」と苦笑いする村の人たち。山から麓までのゾーン分けや、石垣など各構造物の役割をきちんと説明し、どのように水が流れていくか等々を話してくれる、村のオッチャンオバチャン、若者たち。だけど、村の人たちと話し始めて30分以上経っても、アノ単語が出て来ない・・・
「ラマラジュさん、なかなかあの言葉が出てきませんね?」ヒソヒソと言葉を交わす傍らで、チャンドラヤやパドマといった指導員たちは、アノ言葉を言いたくて仕方がないとモゾモゾしている。
「みなさん、だいぶ思い出してきたようですね。ところで、先ほどからよく説明してくれている『山の上から田んぼの先の川まで』というその範囲のこと、何て言うのでしたっけ?」と尋ねる筆者。
「???」「山頂(トップ・ゾーン)、中腹(ミドル・ゾーン)と分けていますけど、何の考えに基づいて分けていたのでしたっけ?」とうとう我慢が利かなくなったパドマが、まるで隣村で研修をしているように、会場に集まっている自分の村の人たちに説明を始め・・・
「そうだ!ウォーターシェッド(流域)だ!」と、叫ぶオッチャンオバチャンたち。たちまち、あちこちから「ウォーターシェッド」という言葉が聞こえてくる。
「まぁ、ウォーターシェッドという単語は忘れても、その意味と活動のコンセプトは覚えているから、良しとしましょうか」と、ラマラジュさんも苦笑い。


3.本気でやりたい人は誰?

そうしてようやく、「今までは、流域の中でも山を中心に、土を作ったり水を守ったりする活動をしてきたけれど、今度はもっと視野を広げて農地でも活動をしてみよう」という、今日のミーティングの趣旨がクリアになった。「ほぉぉぉ」と、感心したようにうなずく約50名のオッチャンオバチャンたち。なんだか、こんな風景を数年前にも見たなぁと、やっぱりデジャブに襲われる筆者。
「ところで、あなたは見かけない人ですが、P村の人ですか?」と、ラマラジュさんが一人の青年に尋ねる。「いや、オレはコイツ(隣に座っている青年)の所に遊びに来ているだけで、なんかこのミーティングに来れば?ってコイツに言われたから、来てるんですよ」と、悪びれずに答える。
「先ほど今日のミーティングの趣旨が、全員で分かりましたね?では、このミーティングに参加すべき人を、みなさんでもう一度考えてください。」
「ちなみに、もうみなさん分かっているかと思いますが、ソムニードは『アレをしましょう、コレをしましょう』と皆さんに提示はしませんし、すぐに何かを造ったりはしません。研修を受けて、考えて、計画して、実行するのが、皆さんがこれからすることです。」と、筆者たちは、ソムニードができることをP村の人たちと確認する。嬉しそうな顔、誇らしげな顔に混じって、怪訝な顔や落胆の顔をしている村の人たち。
あとは彼らが決めること、と筆者たちは会場の外でしばらく待つ。夏の始まりを実感させる熱風が流れ込む会場で、喧々諤々と、村の人たちは、一旦止めた研修を、本当にこれから再開して受ける気があるのかどうか、話し合っていた。そして次々と会場を後にする村の人たち。「研修なんて、かったるい」と笑いながら出ていく青年や、「やっぱりお金はもらえないのねー」と話しながら出ていくオバチャンたちも。さて、誰が残ったかな、と再び会場に入ってみると、パドマ達指導員を含め約20名が、会場の中に残っていた。本気で「農業カイゼンに取り組んでいこう、そのために研修を受けたい」、という20名である。60代のオッチャンから20代の若者まで、男性も女性も入り混じったメンバーとなった。


4.農家がこれから受ける農業研修とは?

その20名と、後日改めて農業カイゼンについて研修のセッティングをして、いざ研修開始である。
「ところで、あなたは田んぼを持っていますか?」と一人のオッチャンに尋ねる。「おぉ、持っとるよ。12月に米を収穫した後、豆を植えとるよ」
「その田んぼの水は、どこから来ますか?」
「オラの田んぼは少し下の方にあるから、上の方の田んぼから流れてくる」
「その田んぼには、どこからその水が来るのでしょうか?」
「ため池だ」
「ため池にはどこから?」
「雨じゃ」
「水路からも流れてくるよ」と、他の人たちも会話に交る。
「雨が降ると、その雨はどう流れますか?」すると、滑らかに説明してくれるオッチャンたち。
「つまり、山からの土がため池に流れ込まないように、今まで石垣などを作ってきたのですよね」と、オッチャンたちの話を受けて、確認する。
「そうして溜めている水を使って、皆さんは稲作をしているのですよね?」
「そうじゃ」

すると、今の稲作方法よりも水を使わない『SRI農法(幼苗一本植え高収量稲作法)』を聞いたことのある別のオッチャンが、そういうようにコメを作りたい、と口にした。今の状態で雨がちょっとでも降らなくなると、ため池だけでは間に合わない、と不安を口にするオバチャンも。
「そうですね。作って守っている水を使いながらも溜めていくことが必要ですよね。それに、水を溜められるのは、今ある大きなため池だけではありません。」と、含みを持たせる。P村の人たちも、今まではいつも、「山の上から田んぼへ」と上から下へと見ていた水の流れを、今度は「農地から水源地へ」と下から上へ辿っていくことで、「自分たちの農業も流域を守る活動の一部なんだ」と、現実味を帯びて実感できるのだ。
「みなさんは、農業に詳しいです」と、また話しかける筆者。「私は町のアパートのベランダで、ゴーヤや花を育てているくらいですので、ほとんど何も知りません」
「なので、これから私たちソムニードが行っていく農業の研修は、農地で土を作り、水の利用を抑え、化学肥料や農薬を使わないようにするには、どんな方法があるのか、年間を通じて作物を栽培するにはどうすれば良いのか、ということについての考え方、選択の方法を提供します。実際にどう実践するかは、皆さん次第です」
「そうだ、ワシらは農業で食ってきた。だけど、ワシの息子たちもそうできるかと言うと、分からない。今よりももっと良くなれるのならば、必死で研修を受けていく」と、指導員でもある50代のダンダシは、力強く言った。

こうして農業カイゼンのための研修の初日、本気で残った20名のオッチャンオバチャンたちは、ソムニードからの提案に真剣な表情で聞き入り、『もっと良くなれる』とは具体的にどういう姿なのかを知るため、「先輩であるB村へ視察に行こう」と決めた。


5.「モデル」ってどういうこと?

一方で、P村が来る前に、今年の農業研修について話し合っているB村の人たち。去年、一家族が一農地を「モデル農地」として担当し、有機農業や多種目の野菜栽培など、農地を無駄に遊ばせることなく行った農業を、今年はまた別の農地でもやりたいと、また30名弱が集まった。去年は田んぼを担当していた人が、今年は畑を、という具合にである。

「ところで、『モデル』って何ですか?」と尋ねるラマラジュさん。
「カッコいい洋服を着て、ステージを歩く人のこと?」と、B村で一番ファッションに敏感な青年が答える。
「そうですね、それもモデルですね。つまり、最新のデザインや縫製の仕方を、ステージで歩く人が見せているんですね。じゃぁ、他の人に見せている目的は何だと思いますか?」
「え~っと、広めたいから?」
「そう。他の人にも、こうしたデザインの服を着て欲しい、他の技術者にもこうした服の作り方があるよと見せたい。だから、モデルが新しい服を着て、こうして他の人に見せているのですね。皆さんも『モデル農地・モデル農家』と言っていますが、何を誰に見せて来たのでしょうか?」
「・・・えへへ」と苦笑いするB村の青年たち。
「今までも、何回か尋ねてきましたが、田んぼを担当したモデル農家の人たちは、キッチン・ガーデンのモデル農地を見ましたか?何かを発見したでしょうか?」
「オラは通り道だから見ていたよ」と、慌てたように言う人もいるが、ほとんどの人たちは他のグループの農地は今まで見ていないし、また、見せようともしてこなかった。
「みなさんがしてきた『モデル』は、自分の家の中で『一人ファッション・ショー』をしていたようなものですねぇ」と、筆者がツッコミを入れると、「その通り!」と苦笑いしながら返してくれる青年たち。
では、『モデル農家』を実践する目的が一人ファッション・ショーで無いならば、『モデル農家』の役割とは何か?『実践して、見せて、広めて、他の人たちにも真似してもらえるようになるのが、モデル農家だ』と、青年たちも改めて気合を入れた。また、それに合わせて、ソムニードが行うモニタリング形式も去年と変更することにした。
こうして「今年こそは本当の『モデル農家になるぞ』」と決意をしたB村の人たちは、黙々と、今年の自分担当のモデル農地についての栽培デザイン・活動計画を作り始めた。
「B村の人たちは、去年もモデル農地の活動計画を作っていて、何をどうするかは知っているから、後の研修はお願いね」と、ラマラジュさんや筆者から、残りの研修を託されるヒロアキとフィールド・スタッフのスーリー。若干顔が強張っているのは、気のせいだろう。


6.魅せるオッチャン、魅せられるオッチャン

そして、P村の人たちがB村に視察研修に来た日。
B村の【田んぼ、キッチン・ガーデン、畑、ミミズを使った堆肥制作】の各チームから各一人が、講師としてP村からの10名を迎えた。SRI農法で二期作を行っているソンブルさん始め、各講師であるB村の人たちに対して、P村からの参加者は、曖昧な質問をせずに、細かく質問を重ねていく。その姿に、「さすがこれまでソムニードから研修を受け続けてきただけのことはあるよなぁ」と、ソムニード・スタッフ達は全員、内心で感心していた。
B村の講師たちも、どのように各農地での経験を伝えるか、という事前研修のようなものは特にしていなかったにも関わらず、「P村の人たちにもやって欲しい」という気持ちがヒシヒシと伝わるような見せ方だった。

田んぼを担当していた青年の講師は、ミミズを使った堆肥作りではB村一であり、植物の葉っぱだけで作ったバイオ農薬など数々の試作をしては改善に取り組んでいる。その青年の田んぼの隣りの堆肥小屋に入った時、P村の人たちは彼に堆肥作りの事について質問したが、青年は一言、「後で、堆肥作り担当講師の小屋に行くから、その時に訊けばいいよ」と、役割をきちんと把握して動いていた。堆肥の質はこの青年と1、2を争うオッチャン講師が待つ小屋に行くと、そのオッチャンは「やって見せるから」と、葉っぱ、ワラを混ぜた牛糞、水、ミミズ、と、まるで料理番組の様にあらかじめ準備してあった材料をまずは披露した。そして、「まず最初に葉っぱを敷きます。葉っぱは、油分を含むモノはダメですよ」と、やっぱり料理番組のようにコメントを挟みながらその場で実践していく。「そして45日間発酵させて出来上がったのが、こちら」と、すでに出来上がっている堆肥も披露する。3分間クッキングならぬ3分間堆肥メイキングだ。「難しくなく簡単にできるよ、とアピールするオッチャン。もちろん、乾季から夏にかけてはミミズが死なないように、頻繁な水やり作業が必要になってくるが、誰でも有機農業に必要なたい肥が作れることが伝わってくる。目が爛々と輝くP村のオッチャン達。

さらに場所を変えて、こうして農業を実践をする前に、どんな目標を掲げて、農地デザインとはどんなことをしたのか、どういう風にモニタリングや記録付けをしたのかなども、聞き込んでいくP村からの参加者。
「よし、オラたちも本当にやっていくぞ!」
「分からない時なんかは、B村のあなた方も指導に来てくれると、嬉しいなぁ」「ワシも、絶対SRIをやってみせる」と、次々とやる気の炎をメラメラと燃え上らせていくP村の人たちだが、はてさて、どのような展開を見せていくか、次号からも乞うご期待。


注意書き

ラマラジュさん=ソムニード・インディアの名ファシリテーター。よもやま通信第1部からおなじみ、事業に欠かせないスタッフの一人。
筆者=キョーコ=前川香子。この通信の筆者で、プロジェクト・マネージャーを務める。
ヒロアキ=インドに赴任してきてもうすぐ1年になろうかという新人駐在員、實方博章。ヒーローのニックネームで、村の人たちにも人気者。

2014年4月22日火曜日

なぜと質問せずに理由を尋ねる方法②

今回は、「なぜ」と質問せずに理由を尋ねる方法をもう一つご紹介します。
相手の話を聞いていて、複数の選択肢の中から、その選択肢を選んだ理由を聞いてみたくなることがあります。
この場合も、「なぜ」と尋ねない方がよいのですが、どうすればよいでしょうか。

例えば、就職面接の際、企業側がこの会社に応募した理由を尋ねれば、応募者のアピール力、理路整然と考えを述べられるかは分かるかもしれません。

しかし、その奥にある、この会社に応募した本当の理由が知りたい場合、
応募者は他の選択肢との間で選択をしているはずですから、その選択肢を尋ねてみましょう。

「他に選択肢はなかったのか?」
「どのような選択肢があったのか?」

就職面接を受けていると、「他にどんな会社に応募してるの?」と聞かれることがありますよね。
それは、志望動機の裏にあるものを知りたいのかもしれません。

(2013年度インターン 藤川真之介)

2014年4月15日火曜日

なぜと質問せずに理由を尋ねる方法①

事実を聞くときに重要なことの一つが、「なぜ?」を使わないこと。
それは相手の考え(perception)を聞くことになるからです。
今回は、相手の過去の行動の理由について、
「なぜ」と質問せずに聞く方法の一つを紹介します。



■考えさせるな、思い出させろ
過去の行動の理由を尋ねる時に「なぜ」と聞いてはいけないのは、
相手に過去の行動について思い出させることなく、
相手の現時点での考えを引き出してしまうリスクがあるからです。
過去を時系列に沿って聞いていき、相手に事実を思い出させることが大事です。


■時系列に沿って聞いていく
過去の講座から、転職の理由を聞くやり取りを例に挙げます。

「現在の会社に就職したのはいつですか?」
「前の会社を辞めたのはいつですか?」
「最初に転職したいと思ったのはいつか覚えていますか?いつですか?」
「会社を辞めるまでどれくらいの期間、勤めていましたか?」
「入社後、どこに配属されたのですか?」
「その部署でどれくらいの期間、勤めていましたたか?」
「その後は、どの部署に異動したのですか?」
「配属は望んで変わったのですか?」
「他にやってみたいことがあったのですか?」・・・

この事例でお伝えしたいのは、時系列の大切さです。
時系列が分からないと、過去の事実を正確に捉えられないので、過去の行動の理由を聞くことなど到底覚束ないのです。

次回は、過去の事実を具体的に話してもらうために、どのように質問を工夫すればよいのかについて、紹介します。

(2013年度インターン 藤川真之介)

2014年4月8日火曜日

どこの国でも基本は同じ

おススメの一冊:「ローマ法王に米を食べさせた男~過疎の村を救ったスーパー公務員は何をしたか?」(高野誠鮮 著)












今、南インドの農村では流域管理プロジェクトを実施中で、2013年度は有機農業への転換となる農業を実施し、水や土壌の使い方のカイゼンにも取り組んできました。
誰が?
村人たちが、です。
 一言で、「村人たちが取り組んできた」と言っても、一筋縄ではいきません。村の人たちにとって初めての事(畝を作る、稲の苗は4・5本で一株ではなく1・2本で一株にして植える、その株と株の間も密集させずに25センチ間隔にする、ミミズを使ったたい肥を作る等々)には不安が先立ち、どのようにすれば慣行栽培からカイゼンできるのか、意識改革から行動に移すまでには多少のプロセスが必要でした。














ご紹介する本でも、従来の農家としての意識から脱皮していく様子が、細かく面白く描かれています。
この本の舞台は、石川県羽咋(はくい)市の限界集落地と言われていた神子原(みこはら)地区で、農業の担い手もほとんどが高齢者という状況にありました。
「若者がいない」
「農業では食っていけない」
「農家が物を売れるわけがない(ビジネスなんかできない)」と、
「ないない尽くし」の嘆き節が至るところに噴き出ています。そのような環境で、著者が市役所職員としてどう関わり、どのように神子原地区の農家の人たちが自信を醸成し、行動変化へと移していったのか。
痛快なエピソードがあちこちに散りばめられているのですが、

 例えば、若者を他都市から呼び込む際には、神子原地区の住人に若者を「選ばせる」。
多くの過疎高齢化地域への若者移住の推進は、その地域の人たちが知らない所で若者が選ばれ、準備され、送り込まれますが、著者が神子原地区の人たちと行ったのは「お願いだから来てください」ではなく、「来るんだったらどうぞ、その代り試験します」というもの。
 その試験を経て(3次試験まで!)移り住んだ若者は、過疎高齢化の進む地区に来た「外部者」から、地区の課題にも取り組んでいく「当事者」へと変化していきます。

 国際協力の場でも「参加型」が連呼されて久しいですが、活動に参加するのは誰でしょうか?
もちろん、途上国の村の人たちやスラムの住人ではなく、外部から来た私たちの方です。
なので、私たちは研修を行う時、農業を実施する時、そこに来る人たちを私たちが選んだりはしません。誰を研修に送り込むか、活動に参加するかは、村の人たちで決めてもらいます。

私たちは、呼ばれる限り研修に赴きますが、そこで何が起こっているのかについては、ぜひムラのミライ(旧称ソムニード)のHPにある「土・森・水・人~よもやま通信 第1部&第2部」をご覧ください。



 












他にも、この本で紹介してあるエピソード「会社を作って直売所を開いて売る」というくだりでは、
「会社を作るといっても、倒産したらどうするげん?」
「失敗したら、誰が責任とるがいや!」
「赤字になったら役所が全額補てんしろ!」
と、初めて行うことに対して、農家の不満と不安が爆発します。
そんなネガティブな失敗予測ばかりの集会が何十回と続きますが、著者は最終的に、一人の農家に「1日パチンコ2万円負けたと思って150世帯集まってみんか?」と言わせて、地区の農家たちによる自分たちの会社設立へと動き出します。

JAも市も1円も出さずに、農家たちだけで、自分たちの製品を扱う会社を設立・運営していく様は、歳も学歴もオッチャンもオバチャンも関係なく農家たちで出来るという、著者の強い信念と農家たちとの信頼関係に基づいているのが分かります。
 
 そして、神子原地区の農産物のブランド化のために、次から次へと動いていく著者の行動と結果は、痛快の極みです。
現在、神子原地区のお米を完全に自然栽培にシフトする試みが続けられているようですが、南インドのブータラグダ村の人たちの姿と重なります。

 コミュニティに関わって活動していく時の基本的スタンス、そしてマーケティングの基本的なことなどについて、そして農家(村の人)の不安や気持ちなど、日本だから途上国だからと関係なく共通する部分を、一冊を通して実感します。


(事務局次長/海外事業部チーフ 前川 香子)

2014年4月1日火曜日

たった一つの質問が「力」を持つ

「この地域で1年に何回米を収穫できるか知ってる?」
農村での移動中、プロジェクトマネージャーの前川から投げかけられたシンプルな質問。


「1回じゃないんですか?」

「この時期(2月初旬)、田んぼによって何か違いがある?」


辺りには12月に収穫を終えた田んぼが広がっています。
村に到着するまでこれらの田んぼをじっくりと見渡すと、
私が今まで田んぼのことを全く気にしていなかったことがわかってきました。
見えてくるのは苗床がある田んぼと無い田んぼ。
そして、苗床がある田んぼの近くには水があることにも気付きます。
水を確保出来さえすれば、通常この地域では年に2回の稲作が行われるのです。


この質問が私にとっての重要なのは、
「1年に何回稲作が行われるか?」という問いへの答えそのものではなく、
私が今まで、いかに「観察」を疎かにしていたかという点です。
この質問は、既に農村部での駐在が7ヶ月目に入った私は当然知らなければならないことですが、
私はこの答えを知りませんでした。

この質問を投げかけられたのが赴任一ヶ月目だったら、
この質問は単純に知識を伝えるだけの質問だったかもしれません。
私が正しい答えを知っていたら、この質問から多くのことは伝わって来なかったかもしれません。
この質問を都市部の事務所で聞かれていたら、
「そういえば知らなかったなぁ」で終わりだったかもしれません。

しかし、実際には私はこのシンプルな問いに対して答えられず、
それが一面に広がる田園風景に重り、
私が今までいかに「観察」をしていなかったかを気付かせました。
たった一つの質問が、それほどの力を持っていたのです。


ムラのミライが誇るファシリテーター達と共にインド農村部の地域開発に関わる中で、
ファシリテーションとは質問力そのものではなく、
総合的な対話のスキルだと考えるようになりました。
ここで総合的というのは、対話のための要素をしっかり準備して、
うまく整理して、適切なタイミングで繰り出すスキル。
そして、その準備を日頃から行う心がけだと考えます。


まずは「誰に何を伝えたいか」が明確でなければファシリテーションは出来ません。
そして、そのためにいつ、どこで、誰に、どんな質問をする必要があるかを
考えられる力がファシリテーションのスキルということではないでしょうか。
その総合力を意識しなければ、ある特定のスキルだけが向上しても、
それをファシリテーションとして使うことは出来ないのかもしれません。
そんな総合的な対話のスキルを身につけるべく、一歩ずつ進んで行けたらと思います。


(海外事業コーディネーター  實方博章 )